セットバック手術をしたらほうれい線が消えるか、むしろくっきりと出てしまうか、気になる方は多いでしょう。セットバック手術とほうれい線の関連性について詳しくご紹介いたします。
セットバック手術が必要なケース
歯並びのお悩みを歯科医院では不正咬合と呼びます。不正咬合は、出っ歯(上顎前突)・受け口(下顎前突・反対咬合)・歯がガタガタ(叢生)・お口が閉じられない(開咬)・口ゴボ(上下顎前突)・噛み合わせが深い(過蓋咬合・すきっ歯(空隙歯列)です。セットバック手術が必要なケースは、歯列矯正での改善が難しい遺伝や先天的に骨格が原因の不正咬合である方で、対象になりやすい歯並びは下記の通りです。
口ゴボ(上下顎前突)
- 見た目として口元が出ているため鼻の下が長く見える
- 口が閉まりにくいため、虫歯や歯周病の感染リスクが高い
出っ歯(上顎前突)
- 見た目として上の顎(上顎)が出ていて歯が乾きやすくなる
- 口が閉まりにくいため、虫歯や歯周病の感染リスクが高い
受け口(反対咬合)
- 見た目として下の顎(下顎)が出ていて横顔に影響が及びやすい
- 噛み合わせが悪くなるため、清掃性が悪く虫歯や歯周病の感染リスクが高い
セットバック手術とは、歯茎の下にある骨(歯槽骨)を水平に切り、小臼歯とその部分の骨を抜き空いたスペースへ前歯と骨を移動し、後方で固定し綺麗なフェイスラインを作る外科矯正です。
ほうれい線が出やすい口ゴボ?理由は?
ほうれい線とは、小鼻からあごに向けて漢数字の八のように伸びていて、頬とお口の境界線のようなラインです。専門的には鼻唇溝(びしんこう)と呼び、若い時には笑った時に少し出る程度ですが、年齢を重ねると周囲の皮膚のたるみやお口元の周りの筋肉の負担により深く刻まれ、シワとなる状態が多いです。
ほうれい線が出やすいのは口ゴボ?
今回、セットバックが必要と言われる骨格が原因の口ゴボ(上下顎前突)を例にご案内しましょう。
❶お口が閉まりにくい
前方にお口が出ているため、閉まりにくい傾向にあります。日常的に閉まりにくい状態ならば、口呼吸をして、お口周りの筋肉は衰えてしまいます。それにより、皮膚がたるみ、ほうれい線が顕著になります。
❷噛み合わせが悪い
口ゴボの方は上下ともに前に出ているため、噛み合わせが悪い状態が多いです。咀嚼の際にしっかりと噛むことができず、左右の筋肉バランスに偏りが出ることがあります。
❸頬とお口の高さが異なる
頬と口元の高さの異なりが大きいというのが口ゴボの方の特徴ですが、ほうれい線は顕著に表れてしまいます。
セットバックとほうれい線の関係
セットバックの手術で上下顎ともに後方へと固定すれば、ほうれい線も目立たないのかと問われると、一概に言い切れません。
- お顔だちや筋肉量に個人差がある
- 通常より後方へ下げてしまった
このような理由から、かえってほうれい線が目立つという可能性も考えられます。
ほうれい線のお悩みが深いのか、それともお口の突出感なのか、どちらを患者様が気にされるのかという点は大変重要です。突出感が気になるけれど歯列矯正で治療が難しい方は、セットバック手術のメリットやデメリットをしっかりと確認のうえ、臨まれると良いでしょう。
当院は、口腔外科で専門的知識を学び、研鑽を積んでいる院長がセットバック手術を行っております。口元の突出感と上の前歯が下を覆ってしまう二つのお悩みを抱えている方へ、セットバックの施術を行いつつ、歯の角度を変えて噛みやすい状態にすることもしております。
セットバック手術とほうれい線に関するQ&A
ほうれい線は頬とお口の境界線のようなラインで、年齢とともに皮膚のたるみや筋肉の負担により深く刻まれ、シワとなることがあります。出っ歯や口ゴボの方は、口がしっかり閉じられずに筋肉が衰えて皮膚がたるんでほうれい線が出来る場合と、逆に口をしっかり閉じようと力を入れすぎてほうれい線が出る場合があります。
口ゴボの方は前歯と歯茎が前方に出ていてお口が閉まりにくい状態です。お口が後方に引っ込むため、顎の位置の変化と頬の筋肉の関係で、ほうれい線が出ることがあります。
セットバック手術の結果は個人差があり、ほうれい線の見え方に影響が出ることがあります。セットバック手術では骨を切って口元を下げるため、僅かにほうれい線が出る場合があります。顎を後方へ下げすぎた場合はほうれい線が目立つ可能性もありますが、セットバック手術の術式では顎を下げられる範囲が決まっていますので、顎を下げ過ぎるということは起こりにくいです。
まとめ
セットバックは全身麻酔を伴う外科矯正です。ほうれい線が深く刻まれるか、浅くなるか等は年齢や皮膚の状態、筋肉量によっても異なります。お口についての専門的な知識や経験をもつ歯科医師、麻酔科の専門医もいるクリニックで行うと、より安全に治療を受けることができます。
セットバック手術がほうれい線に与える影響に関する研究は限られていますが、以下の2つの研究が関連性があると考えられます。
1. 垂直ラムス骨切り術後の顔面の軟部組織プロファイルの変化
Naoumovaら(2008)の研究では、下顎前突症患者が垂直ラムス骨切り術を受けた後の顔面軟部組織の変化を調査しました。この研究では、女性では下顎の後退によりメントラビアル(ほうれい線とあごの間の折り目)とあごの軟部組織が1:1の比率で変化したことが示されました。また、この手術はメントラビアルの深さを増し、ほうれい線の外見を変化させたことが示されました。【Naoumova et al., 2008】
2. 顎変形症のための整形外科手術後の軟部組織の3次元評価
Jungら(2018)の研究では、整形外科手術を受けた不正咬合患者の鼻唇溝の軟部組織変化を3次元的に評価しました。この研究では、Le Fort I手術後の鼻の先端が骨の移動の17%前方に移動したが、鼻の突出部は15%減少したと報告されています。これは、整形外科手術が鼻唇溝を含む軟部組織の形状に影響を与えることを示唆しています。【Jung et al., 2018】
これらの研究結果から、セットバック手術はほうれい線に影響を及ぼす可能性があり、手術によってほうれい線の外見が変化することが示唆されます。